海外小説で古くからのミステリーの女王と言えば、アガサ・クリスティのことです。
創作した名探偵としてはエルキュール・ポアロが有名ですが、もうひとり、アガサ・クリスティが創作した人気を二分する名探偵としてミス・マープルがいます。
ミス・マープルの正式な名前はミス・ジェーン・マープルです。
デビュー作は「牧師館の殺人」で、この作品では辛辣さが目立ちますが、その後の作品では温厚な性格に変わります。
詮索好きで人好きのするキャラクターで、一般的なイメージで浮かんでくるような優しい老婦人です。
ミス・マープルの独特な推理方法
「牧師館の殺人」は1930年刊行ですが、その推理法は、今考えてみてもかなり独特です。
なにしろ起きた出来事、または話されて聞いた内容について、住んでいるセント・メアリ・ミード村で過去にあった出来事や自分の経験に当てはめることで推理を働かせるのです。
この部分がミス・マープルシリーズの最大の特徴と言えます。
初めて会った人は、ミス・マープルが一見無関係のような昔話を唐突に始めることから、最初は彼女を見下すことが多いです。
そこから凡人では思いつかないような謎解きが展開されていきます。
このような推理の方法をすることが可能になっているのは、ミス・マープルの人物に対する卓越した観察力と忘れずに覚えておく記憶力、長年の経験に裏付けられた洞察力が優れているからです。
それゆえに、物理的な証拠をもとにした推理や分析が主体になっている他の探偵たちと比べてみると、動機面から推理を始めていく傾向が多くなっています。
ミス・マープルの出演作品
アガサ・クリスティの作品の全般に感じられるのが上記の推理スタイルの傾向ですが、物語の性質上、ミス・マープルシリーズは特に強く現れています。
そうした推理のスタイルや「火曜クラブ」のベースになっている部分などによって、ミス・マープルシリーズは「安楽椅子探偵もの」と思われがちです。
実際、探偵事務所を構えているわけでもなく、頼まれて浮気調査や素行調査などの尾行を引き受けることもありません。
しかし、大部分の作品ではほかの探偵ものと同じ様に、自分から事件現場に出かけていったり、外出先で事件に遭遇したりしています。
ミス・マープルシリーズは、12作の長編小説と20作の短編小説が書かれて人気を集めました。
長編「牧師館の殺人」「書斎の死体」「動く指」「予告殺人」「魔術の殺人」「ポケットにライ麦を」「パディントン発4時50分」「鏡は横にひび割れて」「カリブ海の秘密」「バートラム・ホテルにて」「復讐の女神」クリスティ最後の作品になった「スリーピング・マーダー」の12作品。
短編
「火曜クラブ」「アスタルテの祠」「金塊事件」「舗道の血痕」「動機対機会」「聖ペテロの指のあと」「青いゼラニウム」「二人の老嬢」「四人の容疑者」「クリスマスの悲劇」「毒草」「バンガロー事件」「溺死」「ミス・マープルの思い出話」「奇妙な冗談」「昔ながらの殺人事件」「申し分のないメイド」「管理人事件」「グリーンショウ氏の阿房宮」「教会で死んだ男」の20作品。